スウォンジー
1815〜20年 朱のエナメルで SWANSEA の窯印
ティー・カップ:H=60mm、D=92mm/ソーサー:D=145mm
 ロンドン・シェイプのティーカップで、スウォンジー窯の特徴として、ハンドルが曲線のうねりの強い独特の造形をとる。暗い緑色で葵か沢瀉のような葉が強く表現され、花も見える。もともとは中国磁器由来の図柄であり、独自の感覚でデフォルメが加えられ、ユニークな雰囲気を醸し出している。
 鳥も飛んでいるが、こちらもかなり変形されて奇妙な姿態になっている。カップには鳥のかわりにピンク色で蝶が描かれている。
 

 

 

 


スウォンジー
1815〜20年
ティー・カップ:H=60mm、D=92mm/ソーサー:D=145mm

 1813年にウェールズ南部のナントガーウ(ナントガーウィ)に窯を建設して軟質磁器を焼き始めたウィリアム・ビリングズレイと地元の測量技師ウィリアム・ウェストン・ヤングは、開窯から間もなくして経営が立ち行かなくなったため、1814年、州政府の資金援助を求めて議会に働きかけたが否決された。同じウェールズで陶器工場を経営していたルイス・ウェストン・ディルウィンは、このようなナントガーウ窯の活動を見て興味を持ち、ヤングに手紙を送って、ナントガーウ窯の工場見学を申し出た。
 ナントガーウを訪問したディルウィンは、製品の焼成失敗の原因が素磁にあるのではなく、窯の建て方の問題だと判断し、ナントガーウ窯業を自らの陶器工場に招聘して継続することを提案した。この申し出を受けたビリングズレイとヤングは、ディルウィンと契約し、スウォンジーにあった彼の「カンブリアン製陶工場」に移った。「カンブリア」というのはウェールズ州を指す古英語である。
 1815年から16年にかけて、ビリングズレイは次々と新配合の材土を開発し、優れた軟質磁器焼成に成功した。これをカンブリア窯製品と呼ばず、「スウォンジー窯」と称する。ディルウィンはステアタイト磁器のライセンスを取得していたため、これを有効利用して、ナントガーウの素磁に使用していた骨灰やカオリン土を、長石やソープロック(ステアタイト)に置き換えた「グラッシー」素磁、ソープロックを「グラッシー」の二倍配合した「トライデント」素磁、スポード・タイプのボーンチャイナ「ダックエッグ」素磁が完成した。これらの新軟質磁器は、いずれも素晴らしい品質であったが、非常にコスト高であり、経営的に黒字を達成することはなかった。
 1816年12月、ビリングズレイは失意のうちにナントガーウに戻り、再びナントガーウで軟質磁器焼成に挑戦することになった。一方ビリングズレイの女婿であるサミュエル・ウォーカーは1817年までスウォンジーにとどまったが、ちょうどこの頃、ウォーカーはウースター窯からの警告書を受け取った。
 ナントガーウ建設当時の1813年、バー、フライト&バー、ウースターに雇われていたビリングズレイとウォーカーは、ウースター窯で開発した新素磁配合法の、第三者に対する守秘義務契約の見返りとして、1000ポンドの約束金を受け取っていた(→ナントガーウのページ参照)。これに違反する疑いがあるとして、フライト、バー&バー(1813年にマーティン・バーが亡くなると、持ち株比率が変わり、バーとフライトの名前が筆頭株主順に入れ替わった)はウォーカーのほか、ディルウィンにも警告書を送り付けてきた。ビリングズレイ達はウースターで開発した秘法を、第三者であるカンブリアン製陶工場に漏洩したわけではなく、ステアタイト配合の新たなフォーミュラを工夫したのだったが、このようなトラブルがあったため、ウォーカーも1817年中にはナントガーウに戻り、ディルウィンも同1817年、カンブリアン製陶工場の経営から身を引き、会社はT&J.ベヴィントンとなった。経営権を譲り受けたベヴィントンは、磁器製造には興味がなかったため、1820年頃まで既存の在庫白磁への絵付けなどを行ったものの、スウォンジーにおける製磁事業は終了した。
 スウォンジー窯の軟質磁器製品は、いずれも当時の英国の趣味を反映した造形と、美しい顔料で描かれた色絵が特徴だが、絵付け技術と絵柄のデサイン自体はさほど巧みではなく、特にビリングズレイ一派が去った後は、絵付けの水準は低下してしまった。
 スウォンジーは白磁に金彩のみの装飾で出荷された製品の人気も高く、ナポレオン趣味のアンピール様式の造形で、フランス(パリ)好みの大陸風作例を多く残している(「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.69参照)。

 この作品は大胆な色遣いでスクロール文様が描かれ、金彩でホーンと花という、フランス由来の意匠が施されている。緑色の縁ボーダーの部分には、中国由来の地文様と図柄が用いられている。形状はロンドン・シェイプで、写真の他にコーヒーカップが伴うトリオのセットになっている。

 

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