オズボーン・チャイナ
1909〜40年 商標登録された通常のオズボーン・チャイナ社の窯印
コーヒー・カップ:H=57mm、D=73mm/ソーサー:D=121mm
 オズボーン・チャイナはスタッフォードシャー窯業群に属し、1909年から1940年までロントンのマウント・プレザントで操業していた磁器メーカーである。
 本品は小さな脚付きのバケット・シェイプに、大小のリングが輪違いになったデザインのハンドルが取り付けられている。このような脚付きで逆台形のバケット・シェイプは、1930年代のイギリスで流行した形状である。また大小のリングを上下に組み合わせたハンドルのデザインは、ドイツのデザイン学校「バウハウス」で教育を受けた女流デザイナー、マルガレータ・マルクス(英名:マークス)が、1920年代に渡英してストーク・オン・トレントで製作したカップ&ソーサーなどに、その源流を見ることができる。
 色絵はプリントで羽子板の衝き羽根に似た朱色の柄が散らされ、手描きの朱色とシルバー・ラスター彩で重圏線が引かれている。
 英国におけるシルバー・ラスター彩は1805年頃にスポード窯で開発されて以来、百年以上にわたって普及品・日用品の装飾技法として愛されてきたが、実際には銀を使って着彩するのではなく、ロジウムやパラジウムなどが利用されている。
 ロジウムやパラジウムという金属の名称からは、金・銀・プラチナに比べて高級感が劣るイメージを抱きがちだが、実際はそうではない。ロジウムとパラジウムは銀と同じ仲間の遷移元素(第二)で、埋蔵量が少ない希少金属(レアメタル)である。そしてこれらはいずれも金・銀・プラチナと同じ貴金属に分類されている。
 ロジウムは銀に似た色で銀より摩擦に強く、酸化・硫化(黒ずむこと)をしにくいため、銀の表面にメッキされて用いられている。現代のクリストフル社などの製品で、純銀製でありながら全く硫化の黒ずみが出ないものには、ロジウム・メッキが施されている。
 パラジウムも耐摩擦性や耐酸性・耐腐食性に優れるため、銀の代用や銀合金、ホワイトゴールドの合金材料として用いられ、最もよく知られる用途としては銀歯の合金材料がある。もし銀歯を文字通り「銀」だけで作ったら、たちまちすり減ってしまうだろう。
 シルバー・ラスター彩も、不安定で変色・摩耗が心配される銀で描くより、同じ貴金属でも丈夫なロジウムやパラジウムで描かれている。銀を使っていないからといって、「安物」の絵付けだというわけではない。
 「シルバー・ラスター」という言葉は、19世紀以来の陶磁器用語になっているが、この際「パラジウム彩」「ロジウム彩」と名称を変えた方がよい。「パラジウム(ロジウム)彩」の作品については、「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.54下、214〜5下、「アンティーク・カップ&ソウサー」p.194、206〜7 に掲載してあるので、ご参照いただきたい。
 

サイトに掲載の写真、文章等の無断転載・転用は堅くお断りします。
Copyright (C) 1999 mandarin d'argent, LTD. All rights reserved