ニューホール
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1800〜10年
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ティー・カップ:H=83、D=57mm/ソーサー:D=131mm
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本品は硬質陶器などに用いられた銅版転写染付による絵柄にもとづいて、ニューホール窯が手描きで仕上げた硬質磁器製のカップ&ソーサーである。絵柄は1800〜20年代にジョン&ジョージ・ロジャーズ窯で作られていたデザインを、ほぼ忠実にコピーしている。ただし、ロジャーズ窯の作品は転写銅版を用いた精密なプリント染付であり、整った画面構成が特徴である。ロジャーズ窯の絵では象の皮膚感や体の陰影に自然なリアリティーがあり、象のすぐ左側には象使いが描かれるが、ニューホール窯の手描き作品ではこの人物は省略されている。その他の部分(建物、樹木、山)はロジャーズとの共通性が強い。手前のフェンス風の柵はニューホール窯の創意である。 ニューホール窯はウェッジウッド窯やミントン窯、ロジャーズ窯、アダムズ窯などと共に、「ポターズ・クレイ・カンパニー」や「ヘンドラ・カンパニー」といった材土供給会社に株主として資本参加しており、これらの友好企業間では絵柄やデザインでも共通の焼き物が作られていた。本品はそのことを示す例として重要な作品である。 またニューホール窯では、このインド風のシノワズリの類似作を数種類の意匠で作っており、よく似た建物や樹木を配置して、横たわる縞模様のベンガル虎を描いたり、二頭の鹿をあしらったりしている。さらに本品とは逆に象を左側に配して鼻を右向きに変え、建物二軒のデザインから樹木の形態までを全部変更した類似作も作っており、本品がロジャーズ窯のデザインとほぼ同一の絵柄であることから、類似作の方は発展的意匠であると考えられる。 |
ニューホール
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1800〜10年
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ティー・カップ:H=58mm、D=84mm/ソーサー:D=137mm
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本品はインド風の生命樹とレンガ造りのやはりインド風の建物をモティーフとしたシノワズリで、口縁周囲の金彩文様に様々なバリエーションがあることで知られる。金彩ボーダー飾りの僅かなデザインの違いで、それぞれ異なるパターン・ナンバーを与えられている。本品に見られる金彩デザインは新しく発見されたもので、現在この意匠に該当するパターン・ナンバーは知られていない。 カップの形状はリング・ハンドル付きのビュート・シェイプで、灰青色の硬質磁器で作られている。 |
ニューホール
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1815〜25年
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ティー・カップ:H=60mm、D=78mm/ソーサー:D=145mm
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本品はロンドン・シェイプのヴァリエーションに該当する形状で、カップの外側とソーサーの内側に、編み上げたバスケットを模した籠目文様がエンボス(レリーフ状装飾)で表現されている。ハンドルはドレスデン(Jシェイプ)・ハンドルで、下端にアウター・スパーの突起が付いている。 このような発展型ロンドン・シェイプであることから、この形状のニューホール製カップ&ソーサーは、1820年以降にボーンチャイナで製作されたというのが定説になっている。ところが本品は、乳白色で透光性が低いニューホール窯のボーンチャイナではなく、灰青色の釉薬がかけられた硬質磁器(あるいはハイブリッド・ハード・ペースト磁器)でできている。ニューホール窯では1814〜15年以降は硬質磁器を製造していないことになっているが、このカップ&ソーサーは従来の説に疑義を呈する作例といえる。 色絵は多色を用いて明るく華やかな花絵が描かれている。それぞれの花はあえて実在性を弱めてデザイン性を重視しており、花と葉全てにグラデーションによる陰影を与え、リズミカルな構成になっている。 本品にはコーヒー・カップが添っており、トリオのセットになっている。 |
ニューホール
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1800〜05年
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ティー・カップ:H=58mm、D=84mm/ソーサー:D=139mm
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本品は薄い灰青色の硬質磁器製で、染付による紺色地の上に豪華な金彩文様が施されている。図柄は、カップ、ソーサーともに四つの唐草文様で構成され、スクロール・エンドには六弁の花文様が描かれている。 ニューホール窯では、中国写しや小花散らしの色絵ティー・ボウルと比較した場合、本品のように金彩のみの仕上げで色絵がないカップの方が、二〜三倍も高価に販売されていたことがわかっている。稚拙な色絵の量産雑器は子供達が作っていたのに対し、立派な金彩仕上げの作品は、親方職人の中でもアーティスト級の人々が手がけていたためだと考えられている。 |
ニューホール
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1800〜05年
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ティー・カップ:H=59mm、D=84mm/ソーサー:D=138mm
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本品は滑らかな釉薬がかかった灰青白色の硬質磁器製で、リング・ハンドル付きのビュート・シェイプのカップに、深型のソーサーが添っている。 波形に白抜きされた染付による紺色地の上に、金彩で葉枝文様が散らされている。放射状に波打つこのような染付図柄は中国磁器に由来するデザインで、ロウストフト窯の創業者であるロバート・ブラウンが、自らのために作らせたというティー・セットにちなんで「ロバート・ブラウン・パターン」としても知られる。ただし本品では、金彩で葉文様を散らしたことにより、東洋磁器の雰囲気を意識させないような仕上がりになっている。 |
ニューホール
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1812〜14年
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ティー・カップ:H=50mm、D=87mm/ソーサー:D=135mm
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本品は青灰色がかった硬質磁器で製造され、ニューホール社が素磁をボーンチャイナに切り替える直前の作品である。 薄い染付による水色のボーダー・バンドには刷毛目によるムラがあり、上に金彩で草文様があしらわれている。紫色と朱色の組み合わせで様式化された花文様を繋いだ図柄が描かれているが、この絵付けの茎の部分は極細の絵筆で繊細かつ正確に描かれている。 カップ外側は大部分に白地が残され、口縁部にS字繋ぎのデザインが金彩で施されている。 本品にはコーヒー・カップが添っており、トリオのセットになっている。 |
ニューホール
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1812〜15年
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ティー・カップ:H=57mm、D=88mm、コーヒー・カップ:H=61mm、D=72mm/ソーサー:D=130mm
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本品はニューホール窯が1812年からボーンチャイナの導入に向けての研究を開始し、1814年には概ね製品化に成功した時期に製造された、硬質磁器製のロンドン・シェイプのカップ&ソーサーである。同窯では1815年以降は硬質磁器を焼かなかったとされるので、この作品は英国最後の硬質磁器製品の作例の一つと言うことができる。1812〜15年にかけてのニューホール窯は、このような従来型硬質磁器を作りながら、平行してボーンチャイナの焼成実験も行うという製造ラインの過渡期にあたり、また経営者のピーター・ウォーバートンが1813年に急死するという出来事があり、会社運営の大きな転換期でもあった。 本品は、淡いブルーの地色枠に、人物風景画、多種の花束絵という、当時としては最も高価な部類の絵付けが施された上、1810年代前半の英国作品としては極めて異例の盛金(レイズド・ゴールド)で装飾されている。 人物画は無地の服とつばのある帽子が特徴の、クエーカー教徒の姿を描いたもので、農作業などの情景がモティーフとなっている。ティー・カップには後ろ向きでそれぞれに籠を携えた青と赤の服の男女、コーヒー・カップには麦の束を抱えた男と白いコートで杖を持った男の旅人、ソーサーには頭に籠を乗せた女と重そうな袋を背負う女、杖をついた旅の男が描かれている。いずれも野原や山、立ち木などの背景が、遠近感を付けて描かれており、画面に奥行きを感じる。 花絵は人物風景画とは別の絵師が分業で描いたもので、黄色やピンクの薔薇や芥子、勿忘草や釣鐘草などが熟達した筆で描かれており、この花絵の巧みさは親方クラスの職人の手になるものと考えられる。カップとソーサーの見込み部分にも花束が描かれている。 金彩はカップの外側に見られるのと同じS字つなぎの波文が、内側では人物画の額縁に盛金で施され、花絵の額縁には大小交互のドット文が、やはり盛金であしらわれている。このような額縁部分の金彩に、文様がチカチカと輝く仕上げがあることは、色絵を一層豪華に引き立たせるために一役買っている。盛金(盛り上げ金彩)とは、膠や松脂など粘性の高い溶媒で金を練り溶いて、高く盛り上げた状態で焼き付ける技法で、ヘンリー・ダニエルが1802年にスポード窯で完成している。 トリオのセット一客あたり、人物画が全て絵変わりで七面、花絵が十面描かれた上に、盛金彩が施してあるとなれば、ティー・セット全体では相当高額で販売されたものと推定される。このように贅沢な色絵と手の込んだ盛金で加飾されたニューホール窯製品があったということは大きな驚きであると共に、本品は「ニューホール窯=日用食器メーカー」という概念が誤りであることを示す貴重な証拠資料ということができる。 |
ニューホール
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1815〜25年
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ティー・カップ:H=61mm、D=82mm/ソーサー:D=140mm
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後期ニューホール窯の初期に製造されたボーンチャイナで、白く滑らかな釉薬がたっぷりとかけられている。質感はジョン・ローズ・コールポートが1820年に発表した無鉛長石釉磁器とよく似ているが、磁胎は重く、ティー・カップが111g、ソーサーが151gとなっている。同一の形状でも1820年代になるとボーンチャイナが重くなるのはスポード社にも見られる傾向である。 ここに見るロンドン・シェイプは口縁の開きが小さく、筒形に近いカップの形状をとっている。ハンドルの造形は大変鋭い仕上がりになっている。カップの内外に色絵で薔薇の連花と葉、金彩で茎と飾りの葉が巡らされた華やかなボーダーが描かれている。 本品にはコーヒー・カップが添っており、トリオのセットになっている。 |
ニューホール
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1795〜1805年
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ティー・カップ:H=50mm、D=82mm/ソーサー:D=141mm
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非常に薄い造りのカップ&ソーサーで、光はほぼ無色に透け、図柄も通常の室内光で透けて見えるほどである。伊万里風の色使いで、松笠のようなオレンジの花とデザイン化された菊か撫子のような花絵が華やかに描かれ、明暗を対比させた緑色の葉が軽妙な印象を与える作品である。釉薬はやや灰色がかっている。 この図柄にも多くの模造品がある。花のデザインのバランスが悪かったり、絵付けが粗雑だったり、全体に薄い色合いの仕上がりだったり、ニューホール窯以外の作品にはそれぞれの特徴があるが、それを見極められないうちは、本品と同じ図柄だからといって、即座に「ニューホールだ」と決めつけてはいけない。 |
ニューホール
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1795〜1805年
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ティー・カップ:H=49mm、D=83mm/ソーサー:D=140mm
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本品はリング・ハンドルが付いたビュート・シェイプの硬質磁器製カップである。絵柄は成人の中国人男女と、蝶に向かって手を差しのべる子供が描かれており、通称「蝶を追う少年のパターン」と呼ばれている。絵柄の外線はグレーのプリントで絵付けされ、色は手描きで施されている。この意匠に類似したものも、スタッフォードシャー地方の様々な窯で製造されている。 |
ニューホール
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1787〜95年
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ティー・ボウル:H=46mm、D=83mm/ソーサー:D=130mm
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ニューホール窯は1781〜82年にかけての間に、スタッフォードシャー地方のシェルトンで創業した、プリマス−ブリストル式の真正硬質磁器メーカーである。ニューホール窯は日用食器専門の窯業者だったと見られがちだが、実際には高度な絵付けで優れた名品も残した。それらは使用するのがもったいないほどの素晴らしい仕上がりであり、高級品の多くが使用を逃れてキャビネット・ピースとして鑑賞されたため、今日まで良好な保存状態で伝わっている。ただし作品の中心はティー・ウエアとディナー、デザート・サーヴィスであり、壺や花瓶、人形などの作例がほとんどないのは事実である。このことから「ニューホール=日用品」という従来の概念が出来上がった。 |
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