ミントン
1867年
ティー・カップ:H=67mm、D=78mm/ソーサー:D=138mm
 本品は日本にあてはめれば幕末の1867年に製造された風景画入りのティー・カップである。
 器型はファヌル・シェイプ(漏斗型)と呼ばれ、細く平易なハンドルが付いているが、全体にセーヴル窯製の食器をコピーした形状である。ソーサーには近代の作品らしくウェル(井戸)があり、カップのズレ防止の役割を果たしている。
 口縁近くにはオリーブの葉と実をデザインした連続柄のボーダー装飾が、アシッド・ギルディング(磁胎腐食金彩)で施されている。色絵では薔薇のフェストゥーンが吊り下げられ、カップに二つ、ソーサーに三つのメダイヨンが、やはり環で吊り下げられたように描かれている。
 メダイヨンの中の風景画は精密巧緻に仕上げられており、空気遠近法を用いた遠景の段階的距離表現は熟達しており、水面には帆舟や建物の映り込みが描かれており、雲の表現や日陰の表現では同系色で濃淡のコントラストを自在に操り、極小に描かれた人物も頭や体や服の色がはっきりわかる。
 小画面ながら絵画的な満足感とともに、写真のようなリアリズムが持ち込まれており、通常より高い品質で管理された作例であるといえる。
 





ミントン
1890年 商標登録された通常のミントン社の窯印
コーヒー・カップ:H=52mm、D=57mm/ソーサー:D=111mm
 大胆で勢いが感じられる渦巻き形の腐食金彩装飾(アシッド・ゴールド)が目を引く作品で、アール・ヌーヴォー(アーツ・アンド・クラフツ運動から導かれた)様式をもとにデザインされた花と葉が、水色と緑色の盛り上がったエナメルで描かれている。花と葉部分に施された金彩は盛り上げられている(レイズド・ゴールド)。
 ミントン社のこのようなデザインの類例に関しては、「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.60下をご参照いただきたい。
 






ミントン
1873年 刻印で MINTON の窯印
ティー・カップ:H=68mm、D=77mm/ソーサー:D=140mm
 セーヴル窯の地色である「ブリュ・セレスト(空の青)」をコピーした青色が印象的な作品である。この青色の部分は厚く盛り上がったエナメルで仕上げられており、地色ではない。この部分を焦げ茶色の枠で囲い、枝垂れ桜をデザイン化した金彩文様が描かれている。白地に薔薇の樹と花、鳥絵を描き、絵の周囲を金彩で塗り潰している。鳥は三種類のフィンチが三羽ずつ描かれているが、それぞれ一番下の一羽だけが灰色のモノクローム描き(グリザイユ)になっている。
 





ミントン
1876年 刻印で MINTON の窯印
ティー・カップ:H=67mm、D=75mm/ソーサー:D=134mm
 薔薇の一輪花と勿忘草のフェストゥーンで飾ったティー・カップで、焦げ茶色の枠取りの中にアシッド・ゴールド(腐食地文金彩)による「ウーイ・ド・ペルドリ(イワシャコの目)」の文様があしらわれている。その他に蓮根を輪切りにしたような図柄のメダル文様も、アシッド・ゴールドで仕上げられている。
 「ウーイ・ド・ペルドリ」とはセーヴル窯でデザインされた丸目連続文様で、図柄がイワシャコ(ヨーロッパヤマウズラ)の目に似ているところから名付けられた。ミントンではこの意匠をコピーして使用している。
 アシッド・ゴールドは、本焼成した磁器に文様を付けた耐食性のマスキングかフィルムを施し、強酸で釉薬と磁質を図柄の凹凸状に腐食させて作るレリーフで、ここに金を焼き付けてから凸部分を磨いて仕上げる。したがって「金を腐食させている」「金彩を彫っている」「金彩に厚みがある」などの説は全て誤りである。
 カップの形状は19世紀後半に流行した「ファヌル・シェイプ」である。
 






ミントン
1870年 刻印で MINTON の窯印
ティー・カップ:H=68mm、D=77mm/ソーサー:D=137mm
 多彩なエナメルで、実際にいる鳥や蝶を描いた、博物尽くし風の絵柄である。絵付け師の画力は少々劣っていて、博物図誌の巧みな写しとまでは言えないが、フィンチ類やハチドリなどが鮮やかに表現されている。一見蛾と間違えそうな蝶は、シジミチョウ類を描いている。カップとソーサーで合計五羽の鳥と四匹の蝶がおり、ハンドルが付いている部分のパネルにだけ蜂が一匹描かれている。
 パネル枠はセーヴル窯の地文様「ウーイ・ド・ペルドリ(山ウズラの目)」をコピーした図柄を、アシッド・ゴールド(腐食地文金彩)技法で描いている。これはステンシル状に文様をマスクした磁器表面を、強酸を用いて腐食させ、凹凸で文様を表してから酸を洗浄し、その上に金をのせて焼き付け、磨き上げる技法で、クリストファー・ドレッサーを中心とする研究グループが、ミントン社のために開発した。
 カップの形は19世紀後半の英国で大流行したファヌル・シェイプ(funnel=じょうご)で、ミントンの他にもロイヤル・ウースター、コールポート、コープランド、ダヴェンポート、ブラウン=ウエストヘッド&ムーア(コウルドン)などを中心に、この形状で大量の作例が残されている。ファヌル・シェイプのオリジナルもまた、セーヴル窯である(「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.42、p.211参照)。
 





ミントン
1871年 刻印で MINTON の窯印
コーヒー・カップ:H=57mm、D=57mm/ソーサー:D=130mm
 この作品は工業デザイナーのクリストファー・ドレッサーが、ミントン社のために1870年頃にデザインした原画の一部を取り出し、コーヒー・カップの装飾としたものである。白色の七宝繋ぎ文や如意型の宝雲文、腐食地文金彩でメアンダー文(雷文)、連珠文、五色の花文など、中国由来のデサインが見られる。
 ミントン社の博物館の学芸員が「ターコイス地」と呼ぶ「ブリュ・セレスト」写しの強い水色は、色絵付けではなく厚いガラス層で、白抜き部分を除いて全体に水色をかけて焼いた後、さらにその上に色絵・金彩を描いている。
 同じクリストファー・ドレッサーのデザインによる類似作の飾り皿が「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.75に掲載してあるので、ご参照いただきたい。
 





ミントン
1872年 刻印で MINTON の窯印
ティー・カップ:H=64mm、D=90mm/ソーサー:D=145mm
 ソーサー中央に蓮の葉が一枚大きくあしらわれ、カップの底には蓮の葉六枚と、三本の脚が作られている。ハンドルは植物の枝を模した中国写しの造形である。このデザインのカップ&ソーサーは様々な絵柄のバリエーションが製作されたので、この図柄専用の形状ではない。
 セーヴル窯の「ブリュ・セレスト地」をコピーした「ターコイス地(ミントン社の呼称)」の上に描かれた模式的な花と葉のパターンは、クリストファー・ドレッサーがミントン社のためにデザインしたもので、多くの作例が残されている。我が国でも東京国立博物館に収蔵されている明治天皇御物のミントンのうち、鳥絵の皿の縁ボーダーにこの柄を見ることができる。
 

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