リウエ-ルロゼイ
1850〜1880年 金彩で Rihouet Lerosey 11 rue de la paix の窯印
コーヒー・カップ:H=60mm、D=60mm/ソーサー:D=121mm
 ジャック・ルロゼイの絵付け工房は、パリのラ・ペ通り11番地(後に7番地にも)にあり、19世紀を通じて多彩な作品を作り続けた会社である。
 ルロゼイの絵付けは精巧・精妙という評語が最もあてはまる。顔料の発色は鮮やかで軽く、透明感を含んだ独特の画風を持っている。絵付け用の白磁は主にセーヴル窯から購入し、高度な絵付けを施したために、今日なお多くのルロゼイ絵付けの磁器が「セーヴル製」と見誤られて売られている。
 たしかに、セーヴル窯製の真正白磁を絵付けに使用したルロゼイは、紛らわしい作品を残したといえる。しかしルロゼイの顔料は薄味を帯びて透けているので、たとえばブリュ・ド・ロワの紺地を仕上げた色合いはセーヴル窯とは違うし、絵柄や構図にオリジナリティがあるので、この窯ならではの風情が漂っている。とはいえ、このことを見分けられる人はコレクターにはいても、我が国の骨董屋・アンティーク屋には一人もいるまい。セーヴル窯の焼成印があったりすると、そのまま「セーヴル」として売るか、一目見れば迷う必要もない雰囲気をはらんでいるにもかかわらず、製造者の特定に悩んだりする。挙げ句の果てに「ルロゼイはセーヴルの贋作者」と決めつけてしまう愚かな骨董業者もある。ルロゼイの絵付けはセーヴル窯とは違うので、贋作者ではない。単に絵付け用の白素磁をセーヴル窯から買っていただけのことである。
 1820年頃にはフランス人のリウエと資本提携をし、名称を「リウエ-ルロゼイ」とした。1880年代以降はルロゼイ家の単独経営となり、工房の場所は旧地のまま移転していない。

 本品はリウエ-ルロゼイの経営下で製造され、白磁はセーヴル窯製である。セーヴルではこの形状のカップを極薄の卵殻胎とするために、一旦成型してから挽物細工の要領(家具の脚やこけし人形を削り出す方法)でカップを高速回転させ、鑿(彫刻刀)で削って紙のように薄い磁胎を造っている。またハンドルは最大幅3mmしかない。結果として本品カップの重さは34gという軽量である。セーヴル窯においてこのような製法は、1830年代には既に一般的だった。
 このような優れた白磁に、ルロゼイではしばしば細密画を描いた。ここでは薔薇の垣根と草原、遠景の森の木々が精密に描き込まれている。垣根の木組みの立体感を表す陰影と交差は完璧に再現され、薔薇の花はまんべんなく配置されているために模式化されたイメージを持っている。薔薇の垣根はセーヴル窯にも意匠が存在するが、このようなモティーフの扱い方と着眼点はない。本品にはルロゼイ独自の小粋で洗練されたデザイン感覚が横溢している。

 「アンティーク・カップ&ソウサー」p.219にルロゼイ製のカップ&ソーサーを掲載してあるのでご参照いただきたい。
 


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