ウースター、バー・アンド・フライト&バー期
1792〜1803(04)年 刻印でBの窯印
コーヒー・キャン:H=60mm、D=63mm/ソーサー:D=140mm
 本品には伊万里焼の図柄からインスピレーションを得た赤絵風の文様が描かれている。精密で破綻のない線描と、バランスよく整頓された色・柄の配置で、品格のある仕上がりとなっている。
 デザインは二節に分けられ、、一つは青海波フリルに紺色の二葉に開いた梅花という構成の小フリーズ、二つ目は松の枝と胡麻斑緑地に黒金の六弁菊花と朱の唐花、梅の蕾の枝と金の花二つに紺色の葉 という構成の大フリーズである。それぞれの断節は朱色に金線をあしらった、柔らかくうねる大きな葉文様で形作られている。ハンドルには金彩で渦巻きの連文が施されている。
 紺色の部分は染付ではなく上絵で、顔料六色に金彩を使用した贅沢な装飾になっている。釉薬は傷がなく滑らかな焼き上がりで、ハイブリッド・ハード・ペースト・タイプの素磁が使用されている。
 







 
ウースター バー・アンド・フライト&バー期
1792〜1807年 陰刻されたBの窯印
コーヒー・キャン:H=61mm、D=62mm/ソーサー:D=140mm
 本品は略称「フライト&バー、ウースター」とも呼ばれる1792〜1807年にかけての時期に製作されたトリオのカップ&ソーサーで、ティー・カップはリング・ハンドル付きの「ウースター・シェイプ」になっている。
 ペール・オレンジ(肌色)一色に金彩のみというフランス趣味の装飾で、文様には一切英国風のアレンジを加えず、フランス発祥の食器デザインを完全にコピーしている。フライト&バー期からフライト、バー&バー(FBB)期にかけてのウースター窯では、本品のように地色のバンド一色に一部は白地を残し、金彩のみで装飾するティー・セットを多く製造したが、窯に残されたパターン帳の中でも、最も豪華な文様が本品の図柄である。そして面白いことに、本品と全く同一の色合いとデザインで、チェンバレンズ・ウースターでもこのパターンが描かれている。チェンバレン社でもこの図柄は最高級品に用いられ、豪華な色絵パネルの外周装飾として、飾り壺などにこの意匠を施した作例が多く残っている。後に1852年、チェンバレンズ・ウースターの経営がカー&ビンズ・ウースターに代わると、同年開館したサウス・ケンジントン・ミュージアム(現ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム)に始まる古磁器復刻ブームに乗り、同社が真っ先に復刻再生産したのが本品の色・柄のカップ&ソーサーだった。筆者は復刻品も所蔵しているが、磁器の材質がボーンチャイナであることを除けば、カー&ビンズ・ウースターのコピー品は、本品と変わらない繊細で緻密な金彩絵付けの技術を継承し、写真では真贋の区別がつかないほど上手に復刻できている。この作品はウースターのデザイン史上でよく知られており、フライト&バー期からチェンバレンズ・ウースター、カー&ビンズ・ウースターを通じて、いずれの時代も同社の自信作であったことに間違いはない。
 造形的にはソーサーの口造りが非常に薄く鋭いのが特徴である。材質は灰青色がかったハイブリッド・ハード・ペースト(擬似硬質磁器)である。
 





 
ウースター バー、フライト&バー期
1807〜13年 刻印で王冠とBFBの窯印
ティー・カップ:H=63mm、D=82mm/ソーサー:D=142mm
 1751年にブリストルから技術を移転して開設されたウースター窯は、翌1752年から生産を開始した。株主十五人の筆頭は医師ジョン・ウォールで、彼は1774年にウースター窯の経営から引退し、1776年に亡くなった。それ以後は第二株主であった薬剤師ウィリアム・デイヴィスが中心となって経営を進めたが、1783年にロンドンでウースター磁器の販売代理店を勤めていたトーマス・フライトに会社が買収され、彼の二人の息子、ジョゼフとジョンがウースター窯を経営することになった。1783年まで、ウォールとデイヴィスが主宰した時期を「ウースター第一期」もしくは「初期ウースター」と呼ぶ。
 フライト一族がウースター窯を経営した第二期は、持ち株比率の入れ替わり(株主の死亡など)により、社名が頻繁に変更されるので、以下にまとめておく。

◎1783〜92年  フライト期ウースター
◎1792〜1807年 バー・アンド・フライト&バー期ウースター(簡略にフライト&バー期とも)
◎1807〜13年  バー、フライト&バー期ウースター
◎1813〜40年  フライト、バー&バー期ウースター

 フライト、バー&バー、ウースターは、1840年にチェンバレンズ・ウースターに吸収合併され、以後の英国窯業史からは消えてしまった。
 1783年〜18世紀末のフライト・ウースター窯は、安価で品質の高いステアタイト磁器を作るカーフレイ窯や、精密な色絵を描くチェンバレンズ・ウースターとの競合に苦しみ、極端に安直な量産と、それに伴う著しい品質低下が顕著に見られる時期だった。しかし経営にマーティン・バーが参画すると、美しい色絵や凝った意匠が復活し、昔日の面影がかなり回復した製品を作るようになった。
 本品はそのような19世紀初頭に作られた、BFBウースター窯の伊万里・柿右衛門写しのカップ&ソーサーである。しかし「伊万里・柿右衛門」といっても、その雰囲気をなぞっているだけで、図柄にはイギリス人ならではのアレンジと変更が加えられ、何が何やら大変わかりにくいデザインになっている。これを見て「完全に日本風」とはとても思えない。
 図柄は柿右衛門磁器をコピーしたマイセン窯の「竹に虎文様」から一部が採用され、鳳凰をアレンジした珍妙でアンバランスな姿態の鳥が、複数描かれている。ピンク色の松の枯れ木は宙に浮き、節穴は金色で、竹の幹から梅の花と枝が生えるという乱暴な構図である。またソーサー画面左の赤い木は、インド風の生命樹である。余白を嫌うため、無意味に昆虫も飛んでおり、全体に日本磁器にはありえない騒々しさになっている。しかしこれはバー、フライト&バー期のウースター磁器の特徴でもあるので、こういうものとして味わい楽しむべき作品なのである。
 形状はリング・ハンドル付きの「ウースター・シェイプ」で、磁器の材質は灰青色がかったハイブリッド・ハード・ペースト(擬似硬質磁器)である。
 バー、フライト&バー期の「なんでもあり」の作風については、「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.31上をご参照いただきたい。
 


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