ファクトリーX(アンソニー&イノック・キーリング、もしくはジョン・ターナー)
1796〜1805年
ティー・ボウル:H=51mm、D=84mm/ソーサー:D=135mm
 本品はスタッフォードシャー地方の詳細不明の窯で作られたハイブリッド・ハードペースト磁器(擬似硬質磁器)であるが、詳細不明とはいっても釉薬の質感や磁胎の不純物の混ざり方、高台の仕上げ、灰振りの具合などから「ファクトリーX」に特定することができる作品である。
 ファクトリーXはニューホール窯のイミテイターで、1971年にデイヴィッド・ホルゲイトが初めて分類・命名した窯業作品群を指す。1970年代にはジョン・ターナー窯の製造ではないかとされていたが、近年ではアンソニー&イノック・キーリング窯の製造が有力視されている。いずれにせよ作品の帰属性は、今日なお定まっていない。
 本品は釉薬がソフトな質感で、磁胎の造形が甘く、全体にエッジの鋭さがない。ソーサー口縁には釉薬が切れてオレンジ色の焼き荒れが付き、夾雑物や灰降りが見られる。ニューホール窯の作風とはかなりの隔たりが感じられる。透過光は若草緑色である。
 この窯の比較研究については、「ニューホールの模造品」のページをご参照いただきたい。
 ここに見られるデザインは、ニューホール窯やミントン窯(ミントン窯もニューホール窯のイミテイターである)とも共通のものなので、今後これに類似した絵柄を見つけた場合でも、「ファクトリーXだ」あるいは「ニューホールだ」と即座に結論づけてはいけない。
 二輪の薔薇を中心とする花束のデザインは、通称「キーウィ・フルーツ・パターン」と呼ばれる。向かって右側の薔薇の描き方が、半分に割ったキーウィ・フルーツの断面を連想させるためである。ボウル内側とソーサーには黒い線が引かれ、花茎と交差する点線に小花が散らされる意匠があしらわれている。
 

 

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