J.&M.P.ベル&Co.
1845〜55年
コーヒー・カップ:H=78、D=66mm/ソーサー:D=145mm
 本品に見られる風景画は、神経質とも思われる極めて緻密な濃淡によって雄大な自然風景が展開している。
 カップには湖畔で釣り糸を垂れる人物が描かれ、遠景の山や雲が巧みな空気遠近法によって表現されている。
 ソーサーはややピクチャレスク風の描き方で、倒木の林の脇を抜けて遠景の塔が立つ町へと向かう旅人が描かれている。
 本品には薄いミントブルーの地色が付けられているが、他には薄いピンク地や薄いオレンジ地、薄い黄色地などでも製作された。ベル社の意匠登録権が終了した後、20世紀になってエインズレイ社が、ハンドルなどを含めて本品と全く同じ形状、そっくりの風景画(プリント使用)、やや太く粗いプリントの金彩文様で、様々な地色による本品のコピー品を製造している。
 





J.&M.P.ベル&Co.
1845〜55年
コーヒーカップ:H=78mm、D=66mm/ソーサー:D=145mm
 J.&M.P.ベル&Co. は、スコットランド地方グラスゴウのダビーズ・ローンで、1842年から1928年まで操業し、「グラスゴウ・ポタリー」と称した。
 製品はアーザンウエア(陶器)をはじめ、フリット軟質磁器やパリアン磁器、ボーンチャイナなどを中心に、様々な装飾磁器やテーブルウエアなどを作った。
 スコットランド地方の製磁業者は、グラスゴウの「デルフトフィールド・ポタリー(1748〜1823)」とマッセルバラの「ウエスト・パンズ(1764〜77)」が最も古く、以後ほとんど全ての磁器メーカーが、グラスゴウとマッセルバラの二か所に集中していた。中でもJ.&M.P.ベル&Co. は、スコットランド最大の経営規模を誇った窯業者である。
 本品はフランス、ドイツの影響を色濃く残したデザインになっており、カップの側面が垂直に伸びた大陸風の細長い造形は、イングランドの食器にはほとんど見られないものである。ハイループ・ハンドルの上端の接合部にもフランス由来の装飾が施され、肌色に近いペール・オレンジの地色や多種の花尽しのボーダーは、パリ窯業群で多用されたフランス風の装飾スタイルである(「アンティーク・カップ&ソウサー」p.84、85参照)。
 このシェイプのカップ&ソーサーはボーンチャイナでも作られたが、本品の素磁は透光性に優れたフリット軟質磁器で、高台の下まで全て釉薬で覆われ、三点の支柱による宙焼きで焼成されている。釉表にはガラス質特有の細長いひび割れが走っている。
 

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